法蓮百物語

水光先生 第4話 呪いの通り道

水光先生が住宅鑑定を依頼された時の話です。そこに住む家族に次々と事故や病気などの災難が降りかかり、真夜中に天井を人が歩き回るような家鳴り現象が起きるという家……。風水鑑定家に頼まれて霊視とお祓いに赴いたところ、予想外の事実が明らかに!

呪いの通り道

私の知り合いに、相談客から頼まれて住宅の家相や風水を診断する人がいます。元々、紫微斗数や六壬、風水術などを扱う占術の専門家だったのですが、各地の龍穴(風水のエネルギースポット)を見て回るうちに第六感が研ぎ澄まされ、他人の気持ちや未来に起きる出来事などを透視できるようになったという変わり種の霊能者です。今まで彼とは仕事上の接点はなかったのですが、つい先日初めて「先生の手をお借りしたい」と頼まれました。聞けば、すぐにでもお祓いして欲しい住居物件があるとのこと。そこで請われるまま、都内のとある住宅街へ出向いたのです。現地ではその霊能風水師の彼と40代前半とおぼしきご夫婦の都合3人に出迎えられました。

「この度は急なお話で済みません。実はこちらのご夫妻からのご依頼でご自宅の家相と風水を拝見したのですが、私の力では手に負えないと感じましたので、ご足労いただいた次第です」。彼の説明によれば、家の新築と転居を機に居住家族の中に病気や事故が連続し、最近では深夜に謎の家鳴り現象まで頻発しているとのこと。依頼を受けてその不審な家屋の風水診断をしたところ、屋内から庭先にかけてかなり強い瘴気が充満していることに気付いたそうです。それで自分なりの手法で発生源を辿ってみたが、どうしても特定できなかったと……。

問題の家屋は、表通りから奥へ入った一方通行の袋小路に建つ2階建ての木造建築でした。そしてその左隣は空き家、右隣は駐車場という一見して寂れた雰囲気の立地。まずは家の四方をぐるりと巡りましたが、その時点では彼の言う『強烈な瘴気』とやらはまるで感知できず、その旨、正直に伝えました。「何も感じないのですが」「ええ、始終発生しているというわけではなく、いきなり嵐のように襲ってくるのです。それで私も頭を抱えています」「この土地に発するものではなく、どこからか流れてくるということですか?」「恐らくはそうだと思うのですが、不思議なことにこの付近にはそうした瘴気の発生源となる沼やケガレ地が見当たらないのです」「袋小路って風水学では凶相ですよね。そちらが原因ということはないのですか?」私の質問に対して、彼は即座に頭を横に振りました。「気の流れが滞りやすいという意味ではたしかに良好とは言えませんが、それが即、霊障や霊現象を引き起こすなんてことはまずありません。別に何かしらの原因があるはずなのです」「瘴気と言えば、水脈や井戸の問題も考えられますよね」「その可能性も調べました。でも敷地内に古井戸の跡などは一切見つからなかったんです。それに単にそうした風水上の問題なら、とっくに私自身の手で解決しています。わざわざ先生のお手を煩わそうなんて考えません。百聞は一見に如かずですから、まずは現物をご覧になってみてください」

そう促され、所有者夫妻の了解も得て問題の家へ上がりました。自ら私を案内してくれたその家のご主人が言うには──。家屋は5年前に親から相続した土地に建てた物で、当時、そこには築年数の浅いプレハブ住宅が残っていた。その上物を取り壊す際に自分もたまたま立ち会ったのだが、土台部分から都心では珍しい生き物か何匹も這い出してきたのが、今も強く頭に焼き付いている、と。「それは何だったのですか?」と問うと、「ヘビ。蛇ですよ。クサヘビだかマムシだか、種類は分かりませんでしたが、とにかく長くてでかいヤツが何匹も飛び出して来たんです」との答えが。「蛇……?こんな都会の真ん中で?」「ええ。ご覧の通り、どこもかしこもコンクリートとアスファルトに囲まれた殺風景な町ですよ。私はこの町の近所で生まれ育ったのでよく知っているんですが、この辺りは空き地の緑さえろくにありません。蛇どころか、カエルやバッタが隠れ棲むような所さえありゃしない。だからあの時は私だけじゃなく、一緒にいた建築業者なんかもみんな驚いてました」。

屋内を回りながら、その後も聞き取りを続けました。しかし不可解な蛇の話以外には、これといった事はありませんでした。家が建っている土地に関して特別因縁めいた出来事が伝わっているわけでもないし、私自身が霊視しても何も引っ掛かるものはなく、ただ首を傾げながら小一時間が過ぎたのです。しかし現実には家を建てて移り住んだ直後から、同居する奥さんの母親、息子さん、娘さんと立て続けに交通事故に遭い、さらにご主人は健康診断で悪性の初期腫瘍が見つかり、来月、手術を受ける予定とのこと。偶然と言うには不幸が続き過ぎています。さらに謎の家鳴りに関しては、深夜の就寝中、毎晩といって良いほど頻繁に2階と1階の天井がまるで屋根裏を誰かが歩いているかのように激しく軋むとのことで、実際に録音した音声も聞かされました。超常現象であることは一目瞭然でしたが、その一方で家鳴りを引き起こしている霊の実体はまるで分からないという、私の霊能者人生でも稀有の体験でした。

そんな時、急に背筋を悪寒が走り、頭が痛くなりました。北東に面した家屋の庭側から、いきなり凄まじい邪気が流れ込んできたのです。「これですか?!」「ええ、これです。いつものこの位の時間にこの瘴気の波がやって来るんです」邪気の波動は勢いづいて渦巻き、庭と家屋に滞留しながら、やがて南西の方角へ過ぎ去っていきました。全身から腐敗した粘液を滴らせた巨大なミミズが、辺りをのたうち回っているようなビジョンが目に浮かびました。

(もしかして、これは呪詛の波動?)

誰かがこの家に呪いを掛けているのではないかと思ったのですが、邪気が去った後には何も残ってはいませんでした。ただし地形が袋小路であるが故に、その一部が土地の地中に残存する様子も見られました。この残滓が積もり積もって、気味の悪い蛇や虫が発生するような余地を醸成したのではないかとも推察しました。こうして瘴気が流れ込む現場は確認したものの、その発生源は不明なまま。私と件の風水霊能師のみならず、家の持ち主のご夫婦もその毒気に当てられて顔面蒼白の有様でした。とくに奥様の方はご主人よりも霊感が強いらしく、脂汗を垂らしてその場にへたり込んでしまうほどでした。例え短時間とはいえ、毎日こんな強烈な邪気に当てられて無事でいられるはずがありません。ご家族に不幸な事故や病気が連続しているのも、むべなるかなです。お祓いなどの対処をしようにも、呪詛の発生源が特定できなくては無力です。取りあえずこの件はいったん預からせてもらい、後日あらためて原因を究明するということでその日の調査は終わりました。

邪気発生の原因が分かったのは、それから3日ほど後のことでした。問題の家がある町近辺について情報を集めていたところ、ある女性霊能者から赤い×印でプロッティングされた地図を見せられたのです。「実はあそこね、曰く付きのエリアなんですよ。ふたつの教団がお互いに相手を呪い合っているんです。どっちも宗教団体としての認可もないマイナー教団なので、まだ表立っては騒がれていないようですけれど……」。彼女によれば、エリア内の2つの町内に跨る形でそれぞれ別のカルト的な信仰団体の道場が存在しており、毎日決まった時間、お互いの道場内部でそれぞれの信者達が呪詛の投げつけ合いをしている、というのです。言われて地図で確かめると、私が調査に行ったあの家は敵対する2つの道場の所在地のちょうど中間地点。つまり、行き交う呪詛のエネルギーの通り道に当たっていました。その2つの団体は元々、同じ根を持つ集団だったそうなのですが、教祖の後継者争いで分裂して以来、激しくいがみ合っているのだ、と説明されました。情報を教えてくれたその女性は、「そのうち直に殺し合いでもするんじゃないですか」とも危ぶんでいました。

翌日、すぐに霊能風水師の彼に事情を伝えました。結果、どのようなお祓いをしても無駄なので、これ以上の災いを避けるには転居するしかないということになったのです。人を呪い殺せるほどの力量を有する祈祷師が互いに十数人ずつ入れ乱れて争うところへ、私が単独乗り込んで調停する自信はとてもありませんでした。

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