法蓮百物語

射號津先生 第2話 この家は住めません

今回は、射號津霊能者がお盆に帰省した折に関わった、ある出来事についてのお話。地元の友人に「家に幽霊が出る」と相談を持ちかけられてさっそく現地へ行ってみると、恐ろしい事実が発覚したそうです。

家に幽霊が出る

友人の女性から霊が関わる悩みの相談を受けました。当事者の了解を得た上でその話について書かせていただきます。発端は、お盆の休暇で帰省した時のこと。実家に帰ると先客がいて、私の顔を見るなり抱きつかんばかりの勢いで駆け寄ってきました。その女性は雅美さん。姉の高校の同窓生で私とも親しく、10代の頃はよく彼女の車に乗せてもらってドライブなどに出掛けていました。「雅美さん、久しぶり。どうしたの?」「それがね、折り入って相談したいことがあって」そう言いかけたまま、言葉を詰まらせてしまった彼女。深刻な悩みと察しました。沈黙が長く続いたので、見かねた姉が引き継いで事の次第を教えてくれました。

「雅美の家ね、5月に建て売りの新築を買ったの」「あら、おめでとう。どうして報せてくれなかったの。祝いを贈ったのに」「それがね、あんまりって言うか、全然おめでたくないことになっちゃってるわけ。つまりね、出るのよ。あんたの専門分野のアレが」そう言うと姉は、胸の前で両手の甲をブラリと垂らしてお決まりのポーズを作りました。いったいどんな霊が出るのかと訊いたところ、本人がうつむいたままポツリと漏らしました。「蛇……お婆さん……」「蛇の霊とお婆さんの霊が出るってこと?」「ううん、違うのよ。顔がお婆さんで身体が蛇なのよ」。

脅えた眼差しで彼女が言うには、新居への引っ越しを済ませたばかりの夜、小学生の長女が真夜中に突然、夫婦の寝室へ飛び込んできて「廊下に大きな蛇がいて怖い」と訴えたそうです。「蛇?夢でも見たんじゃないか?」「ううん、本当に蛇がいる。お父さん、追いだして!」。訝しみつつも旦那さんは1階の廊下を調べ始めたそうです。ほどなくして今度は彼の絶叫が聞こえたので、その声に雅美さんも慌てて部屋を飛び出してみると、「神社のしめ縄ぐらいある大きな蛇がとぐろを巻いて、玄関口で腰を抜かしているダンナを睨みつけていたの。しかもその頭は人間の形をしてたのよ。白髪頭で目を血走らせたお婆さん。親子3人で同時に見たんだから、絶対に幻覚なんかじゃないわ」。

その後もその霊はたびたび屋内で目撃され、春に建てたばかりの新築の家を手放すかどうか、夫婦で真剣に話し合っているとのことでした。「私は真っ先に▲▲ちゃん(私の本名)のことが頭に浮かんだんだけれど、その前にダンナが俺にもアテがあるって言って、霊能者の評判が高いお寺のお坊さんを連れてきたのよ。その人、お経を上げたり、お札を貼ったり、親身に色々やってくれたんだけれど、結局どれも効果がなくて」。その住職は最後にあきらめ顔で一家に警告したそうです。「申し訳ないが、この家はとても人が住めるところではない。できるだけ早く、転居を考えた方が良い。さもないと命を取られます」と。「すぐにでも家へ来て欲しい」と頼まれたのですが、念のためいつもの心霊鑑定の手順を踏みました。別室で彼女と2人きりになり、透視でその心の中を覗いてみたのです。結果、彼女が言っていることが全て事実で、家屋に出現するという霊も集団幻覚ではないことを確認した後、夕刻に現地へ向かいました。

そこは付近の新興住宅地からさらに奥まった場所にある雑木林と接した一画でした。あらかじめ旦那さんにも連絡を取り、立ち会ってもらう形で探索を始めたのですが、家屋の内部に入る前におおよその事情が分かってしまいました。家を含めた周囲の土地は、それほど強烈な念波に満ちていたのです。よく映画やドラマに出てくる霊能者が、「ダメ!ここから先には行けない!」という台詞を口にしますが、まさにそういう類の場所でした。

私は玄関口で、地元の建設関係会社に勤務しているという旦那さんに訊ねました。「今、透視してみたのですが、以前ここの土地には大きな農家があったはずです」「はい、そのことは私も業者から聞いてます。近隣で一番の大地主の屋敷があったとか。取り壊されたのは、たしか平成に入った頃だったかな。手前の住宅街を拡大するために複数の開発業者が買収を図ったが、どこも上手く行かなかったと。それからしばらくは更地のまま放置されてました。じつはうちの会社も一度、この土地を買おうとしたことがあるんですよ。それで当時、隣県に移り住んでいた所有者に掛け合ったのですが、取り付く島もない感じで断られまして」。しかし一昨年、所有者の老人が死去してすぐに土地が競売に出され、それを買った業者が5軒の建て売り住宅を建設。その1軒に雅美さん一家が移り住んだというわけです。

その後、家屋の内部を見て回って、霊祓いの儀式を執り行いました。正確に言えばお祓いではなく、一時的な結界を張っただけなのですが……。土地の因縁自体を解消するのはとても無理な話で、先に相談したという住職も悪戦苦闘した挙げ句、同じ結論に達したのでしょう。儀式を終えた後、「これで3ヶ月くらいは無事に住めます。その間に別の住まいを探してください」と伝えたのですが、雅美さんはともかく旦那さんの方は承服しかねる顔付きでした。しかし数日後に当人から電話が来て、「やはり、素直に従います」と態度を急変させていました。「あれから、あらためて調べたんですよ。そうしたら、元の屋敷を取り壊した解体業者やその元請け、それから建て売りを作った担当の課長や部下、とにかくあそこに関わった全員が、自殺や事故で変死していることが分かりました。さすがにもう限界です」。

最後に私が現地で透視した内容について書いて、このお話を終えます。それは元の屋敷の代々の当主が、巫蠱(ふこ)と呼ばれる特殊な呪術を執り行っている情景でした。大きな甕の中に無数の蛇を入れて蓋を閉め、互いに共食いさせた挙げ句、最後に残った一匹を滅ぼしたい相手の家に解き放つのです。恐らくその地主の一族は、必要に応じてそれを繰り返して身上を広げていったのでしょう。最後にその呪術の標的となったのは、水利と畑地の境界線で揉めていた隣接する豪農の家のお姑さんで、悲惨な狂い死にをしています。それが起きたのは昭和初期の頃だと思われます。

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