第1話 拝み屋の子孫 究道先生
法蓮百物語

究道先生 第1話 拝み屋の子孫

百物語の第1話は、究道霊能者がまだ新人だった頃のお話です。地方のお祭りイベントに招かれて仕事をした後、主催の担当者に呼び止められて告げられたこととは……。

拝み屋

かれこれ30年以上も前の体験です。当時はまだ霊能鑑定がそれほど広く認知されていなかったこともあり、大上段に霊能者という看板を掲げることはせず、タロット占い師の肩書きで活動していました。何にせよ駆け出しの時期ですから個人の顧客もおらず、占い師専門のプロダクションに登録をしてそこから派遣される形で仕事をしていました。系列の占い館でレギュラーとして働いていた他、各地でのイベントなどへも出向き、それなりに忙しい日々でした。

そんな折、事務所から北関東の某地への日帰り出張の仕事をもらいました。例年行われる商工会主催の大きなお祭りで、占いコーナーを設けるというお話でした。そこで当日の朝早く、言われた通りに現地へ行ってみると、商店街のアーケードの一画にテーブルと椅子と簡単な仕切りで作られた即席のブースが並んでいました。

「それでは今から終了時間までお願いします。時間の延長はなしで、1人15分までということで」現場を取り仕切っている白髪頭の中年男性にそう言われ、総勢6人の占い師が威勢良くスタンバイしたのですが、予想を遥かに越えて盛況となり、私1人だけで30人以上のお客様と接しました。おかげで夕刻が近づく頃にはもうヘトヘトでした。

最後のお客様の鑑定が終わり、ブースの片付けも済んで、さあ、これでようやく帰れると思ったその時のことです。他の占い師たちが次々と去っていく中、午前中に指示を受けた担当者の男性が再び現れて、私に向かって小さく手招きをしてきました。それで何かと思って近づくと、いきなり「あなた、ホントに見える人でしょう?」と指摘されたのです。

「そんなこと、どうして分かるんですか!」「じつは僕もね、あるんですよ、霊感が」その男性の話によると、彼の家は3代前まで地元で祈祷師のようなことをしていた、とのことでした。「先祖がね、修験の行者だったんですよ。山を下りたのは幕末の頃だと聞いています。還俗して所帯を持って街道筋で商売を始めたらしいのですが、あいにくそれが上手く行かず、人に頼まれるまま祈祷やお祓いの類をして糊口を凌いでいたそうです。

で、そのうちにそっちが本業になっちゃったそうで、祖父さんの代まではこの近辺ではわりと有名な拝み屋でした。もちろん今はそんな事はやっていませんが、僕はたまたま血筋の力を受け継いだようで、子供の頃からしょっちゅう他人に見えない物が見えたりするんです」口許に薄ら笑いを浮かべながら滔々と自分語りを続ける男性の前で、私は無意識に霊眼を働かせていました。本人の言葉通り、すぐ背後に行者の霊か浮かんでいるのが見えました。

そして思わず後ずさりました。年季の入った法衣を身にまとい、金剛杖を突いた典型的な山伏の姿。ただその痩せぎすの顔の両眼は異様に釣り上がり、口が耳まで裂けていました。おまけに弓なりにしなった口の中は真っ赤。とても人とは思われぬ、凄まじい形相でした。男性は怖じ気づく私の様子に気付くと、「ああ、僕にくっついている物も見えるんですね」と言って、深いため息を漏らしました。明らかに事情があるようでしたが、こちらはおかしな因縁に関わりたくない一心であいさつもそこそこにその場を離れてしまいました。

お祭りイベントの撤収をしている商店街の中を、駅の方向へ一目散に歩き出したのですが、やがてその足が止まりました。アーケードを抜けた交差点の横断歩道の向こう側に、何と今別れたばかりの男性が立っていたのです。(えっ、どうやって先回りしたの!)思う間もなく男性は、赤信号を無視してツカツカと歩み寄ってきました。そして青白い顔をグッと寄せ、「僕に憑いている物、何なのか知りたくないですか?」と訊ねてきたのです。

「し、知りたくありません。ごめんなさいっ」狼狽しながら答えると男性は少し間を空けて、「僕からあなたに移りたいって言っているんですが、良いですかねぇ」。頭の中が真っ白になっていたので、相手の言葉の意味が分かるまで数秒かかりました。慌てて首を横に振りながら、悲鳴を上げて助けを呼ぶべきか一瞬、迷いました。するとその間隙を突くように、すぐ前の路上から大きな衝撃音が響いてきたのです。バイクと乗用車の衝突事故でした。

バイクに乗っていた若者は弧を描いて道路に投げ出され、そのまま動かなくなりました。突然の出来事に虚を突かれた男性の脇をすり抜け、私は脱兎の如く横断歩道を駆け抜けました。途中で走りながら振り向くと、あの山伏の霊が男性の背後を離れ、道路に倒れたままの人影の上に抱きつくように覆い被さる様子が見えました。まるで屍肉に食らいつく猛獣のような有様でした。また当の男性は次々と野次馬が集まり出す中で、棒のように立ち尽くしたまま。遠目に薄ら笑いを浮かべていることが分かり、私は心底から身が凍りました。

あれからかなりの年月が経ちますが、いまだに真相を探ろうという気は起きません。もし下手に霊視などをして再びあの霊とつながってしまったら……それを考えると背筋が震えます。長年の経験を通して体得したことですが、どんなに優れた霊能力をもってしてもどうにもならない事象というのがまれにあるのです。あの山伏の格好をした何者かも、間違いなくその類でした。

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